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和歌山県・雑賀崎沖埋立問題について

<これまでの経過(1997年9月〜2000年7月)>

1.【当初案とその差し戻し】

 117haを埋め立てる当初の雑賀崎沖埋立計画は、平成9年(1997年)9月に和歌山県地方港湾審議会に諮られ、承認されます。しかし、雑賀崎地区連合自治会や雑賀崎の自然を守る会を始めとする反対運動が巻き起こり、平成9年11月の運輸省の港湾審議会第164回計画部会の審議では、瀬戸内法の基本指針に抵触するとして、「景観面からの再検討を要す」ということで、事実上和歌山県に差し戻されました。異例の事態です。  

2.【修正案とその条件付き承認】

 差し戻しを受けて、和歌山県は74haの「修正案」を作成します。この「修正案」は、平成11年(1999年)6月の和歌山地方港湾審議会を経て、平成11年7月の港湾審議会第169回計画部会で承認されますが、この際にも景観面への配慮とともに、「地元関係者の理解を得るよう更に努力すること」という、再度の異例の付帯条件がつけられました。前代未聞のことです。

3.【埋立計画の問題点の露呈】

 現在(2000年夏)、和歌山県・港湾課は、「修正案」は付帯条件付きではあっても港湾計画決定したとして、あとは事業実施の段階としています。ただ、今回の埋立計画は、運輸省の補助事業の対象になるものであり、一部に運輸省の直轄事業部分もあることから、事業実施には運輸省による予算付け(新規事業採択)が必要です。和歌山県・港湾課は、今年の4〜5月頃には運輸省に対する来年度予算要求をしたいとしていましたが、結局、今年度は断念せざるを得ませんでした。理由は、港湾貨物量が低迷していること、県財政が逼迫していること、更に、住民の理解が得られないこと等です。図らずも今回の埋立計画の問題点が露呈してきている格好になっています。


 



<雑賀崎沖埋立計画の問題点> 

1.【永続的に続けられる公共事業による景観・環境破壊】

 埋め立てが計画されている雑賀崎沖は、「紀の国の雑賀崎の浦に出で見れば…」と万葉集に詠われた雑賀の海であり、昭和43年の埋立計画を中止させて、守り残されてきたところです。住民にとっても、和歌山県民にとっても更には日本全体にとってかけがえのない歴史的・自然的環境です。ここの歴史的景観や自然環境が失われるようなことがあれば、取り返しのつかないことになります。

2.【港湾計画策定段階における景観アセスメントの問題】

 今回の問題では、これまでとくに景観保全が大きなテーマになってきましたが、埋立計画を審議し、異例の付帯条件を付けて承認した平成11年7月の港湾審議会第169回計画部会(運輸省)で資料として用いられたフォトモンタージュは、住民がその使用を止めるように抗議していたものでした。技術的には決定的に不適切なものであり、道義的には許されないもので、こうした資料を用いての審議内容が問われるものになっています。

3.【無駄な公共事業】

 前回港湾計画での港湾造成や供用が未達成な状況であり、数十haに及ぶ広大な遊休地があるのに、今回また74haというこれまでにない大規模な埋立計画が建てられているのです。今回の港湾造成には、木材貨物が平成20年代始めに82万トンになるという需要予測がなされていますが、実際には構造的な減少が続いており、とくにここ3年間(平成9年〜平成11年)は、32万トン、24万トン、16万トンと激減しています。コンテナ貨物の場合にも、週2便あった航路が、週1便に減るなど貨物量は、低迷しています。現在の貨物量から言えば、前回港湾計画分ですでに過剰設備になっています。

4.【財政破綻の引き金に】 

 2000年5月末にだされた県の「財政運営プログラムII」では、「大規模プロジェクト事業については、…さらに規模の見直しなどに努め、財政運営に支障をきたすことのないように配慮する」とされ、数百億から1000億円もかかるといわれる今回の埋立計画をそのまま実施することは、財政的にも無理であることが明らかになっています。  

5.【住民参加・情報公開という点での問題】

 港湾計画の策定段階で、和歌山県は、住民と話し合うということを一切せずに、行政内(庁舎内)ですでに決定したことのみを住民に説明するという手法を一貫して取りました。情報公開という点でも行政として出したくないものは、最後まで情報公開しませんでした。たとえば、港湾計画策定時に義務付けられている「環境アセスメント」は、中央の港湾審議会には資料として提出したにもかかわらず、和歌山県地方港湾審議会にも提出せず、住民の公開要求にも「非開示」としました。 

6.【試金石としての雑賀崎沖埋立問題】

 以上のように、雑賀崎沖埋立計画は、悪しき公共事業の典型になっています。今回の埋立計画が白紙にもどされて全面的に再検討されることになるのか、それともこのまま事業実施されることになってしまうのかは、"無駄で有害な"公共事業を規制できるかどうかの試金石になっています。

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