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2001/8/29

中央環境審議会地球環境部会
「目標達成シナリオ小委員会」
中間取りまとめに対するパブリックコメント

原科幸彦(東京工業大学)

・U各部門別の排出実態と対策の現状
A新エネルギー導入の現状と課題

(1)  この中間とりまとめにも示されているように、我が国は風力などの自然エネルギーの導入が欧米各国に比べ大きく遅れています。私は今後のエネルギー政策は、再生可能エネルギーである自然エネルギーの促進に重点を置くべきと考えます。このような政策的な意図を明確にして今後の対策を考えるべきです。
 中央環境審議会はエネルギー政策の優先順位に関する社会的合意を得るための公開での議論の場を作って下さい。経済産業省だけがエネルギー政策を考えるという発想では日本の未来はありません。問題解決の方法についても改革が必要です。
(2)
 この問題は専門家だけの間で議論するのでなく、公開の場で広く専門家と国民が討論するべきです。ここで言う専門家はエネルギー分野に限ったものではなく、むしろ多様な学識者というべき人達です。議論のプロセスがよく見える透明性の高い公共的な場を作ることが必要です。具体的には以下のようになります。

(公開での議論の場の形成と運用)

 この議論の場においては、エネルギー政策の専門家は、情報提供役として、一般市民や他の分野の学識者とテーブルを囲みます。このようなメンバーで公開の場で議論をするコンセンサス会議のような場を作ります。コンセンサス会議では専門家はテーブルには加わらず、情報提供役に徹底します。 しかし、私は一般市民だけで議論するのではなく専門家もテーブルに加わる形が良いと思います。
 今、私は長野県の田中康夫知事の依頼により県の廃棄物処理計画について大変に透明性の高い合意形成のプロセスを進めていますが、これが参考になると思います。この場では、学識者と住民が同じテーブルを囲んでいます。賛否両サイドの立場の人が加わっています。私は、主要なステークホルダーが参加する場を構成し、公開の議論を行っています。長野のこの検討会議では単に傍聴を許すだけでなく、地元のCATVでも放映しています。この検討委員会の設置と運用には7原則がありますが、ここでは省略します。
 このように、政策の優先順位に関して、インターネット時代にふさわしい公開での議論を行うべきです。議論の模様をインターネットやデジタルテレビ等で放映あるいは放送し、これらメディアの双方向性を活用して国民の意見を積極的に問うべきでしょう。

 以下に個別の意見を若干、述べます。

(3)
27頁、8行
「○風力発電の経済性を確保するための普及促進策や市場形成方策が必要・・     ・・
このような入札枠の設定は、系統への影響を抑制する目的と経済性を確保するために実施されており、今後は、どの程度までなら、導入可能であるか技術的、経済的な検証が期待される。」

 このような「どの程度までなら導入可能であるか」という姿勢では、自然エネルギーの促進はできません。EUが2000年に打ち出した再生可能エネルギー指令のように、自然エネルギーの系統への優先的連係を求めるべきです。

27頁、下 9行
「米国では、電力の自由化による低価格燃料(化石燃料)への集中を防ぎ、自然エネルギーの普及を図るために風力を含む再生可能エネルギーの導入を割り当てる手法(RPS:Renewable Portfolio Standard)の制度が複数の州にて実施されたり、検討され始めている。」

 導入割り当てだけでは自然エネルギーの促進は期待できません。割当量の水準が低ければ、我が国の緑化率規制のように低い水準がそのまま上限になってしまうからです。導入率を上げさせるためのインセンティブの付与が不可欠です。そのためには、まず自然エネルギー導入の障害となっている価格面での条件を改善しなければなりません。具体的には固定価格補助を最初に制度化するべきです。

28頁、1行
「電力市場の自由化に伴い、買取り義務づけによる価格保証的な支援制度に替え、オランダのように「グリーン証明書」を発行し、再生可能エネルギーの普及を支援する制度も存在する。」

 ここでは、買取り義務づけは電力市場の自由化に相反するような記述になっていますが、果たしてそうでしょうか。両者は本来、独立なはずです。電力市場の開放と買取り義務づけが対立するという論理は成立しません。

28頁、9行
「国内での本格的普及のためには、これらの支援制度に関しても検討していく必要がある。」

 以上を通じて、自然エネルギーの促進というスタンスが弱いように思われます。自然エネルギーの促進のためには、価格補助が効果的です。例えば、ドイツ式の kWhあたり固定価格補助が最も有効な施策であることが世界的にも認識されていると聞きます。とりわけ、自然エネルギーの導入が欧米諸国に比べ立ち遅れている我が国においては、固定価格補助はまず採用すべき方策です。
 これは自然エネルギーの促進を優先するという政策姿勢の表明でもあり、政治的な判断で出来ることです。

(4)
VII. 温暖化対策の経済性評価―数量モデルによる評価
171頁
「「対策技術の評価に基づく経済性評価」では、6ガスすべてを対象にして、原子力発電所の新規立地を7基と想定し、個々の対策技術による削減量と費用の積み上げにより評価を行っている。」

 原子力発電所の新規立地がシミュレーションの前提として扱われていますが、これはおかしくはありませんか。原子力発電所の経済性自体が問題とされているのに、なぜその経済性が評価の対象とはなっていないのでしょう。これは理解に苦しみます。ここで前提としている原子力発電所自体の経済性も含めた評価でなければ論理が通りません。
 とりわけ原子力発電所に関しては、開発計画の策定、立地点の選定、施設建設、核廃棄物の最終処分、施設の解体・最終処分まで、膨大なコストがかかります。これは経済的な費用だけでなく環境への影響も重要です。そして、その費用の多くを国が補助しているわけですから、その費用と効果を分析しないのは合理性に欠けます。これが、原子力発電が国民の理解を得にくい原因の一つでもあります。

 また、ここでは原子力発電所の増設は7基が想定されていますが、現在建設中のものは4基です。さらに3基を増設可能としていますが、これは不確定です。建設の実現可能性を検討するべきです。そして、4基しか建設できない場合も想定すべきです。
 「削減量と費用の積み上げにより評価を行っている」ということは、政策分析に用いるシステム分析を行ったということと判断されます。この場合には、考えうる色々な場合を想定して比較検討ことになります。すなわち、これは一種のアセスメントですから、色々な場合を想定した代替案の比較検討が必要です。

原科幸彦(東京工業大学)


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