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2000年11月22日

「原発推進法はバラマキの推進」

原科幸彦・東京工業大学教授

 今、国会では政局の混乱に隠れて、時代錯誤的な法案が密かに審議されている。しかも慎重な審議もなく一気に成立に向け突っ走ろうとしている。原子力発電施設等立地地域の振興に関する特別措置法案、略して「原発推進特別措置法案法」である。ほとんどの国民が知らないうちに、審議開始からわずか数日で法律が作られようとしている。慎重な審議が不可欠である。

 この法律のもとでは、総理大臣と8名の閣僚で構成する原発立地会議で公共事業のバラマキを決めることができる。原発が立地している都道府県なら、知事が立地点の周辺市町村の地域を指定し、幅広く公共事業の実施を提案できる。条文をよく読まないとこの仕組みが理解できないが、これでは、意思決定過程の透明性も何もあったものではない。

 11月14日の午後、参議院議員会館でこの法案に反対する集会が行われた。会場は国会議員をはじめ、専門家やNGO等で満員の盛況であった。集会では、公共事業チェック議員の会代表の中村敦夫や、社民党の福島瑞穂、自民党の河野太郎ら、計12名の国会議員による反対発言が続いた。NGOからも反対発言が続いた。だが、国民のほとんどはこのことを知らない。

 筆者は、与党の公明党などにとって、環境保全の推進は基本的な政策方針だと考えていた。ところが同党は、この原発推進法案に対しては、そのような態度を表明していない。原発推進はリオの地球サミットで世界が合意した「持続可能な発展」に反する政策である。環境保全を党の基本方針とするのならば、原発はノーでなければならない。

 温暖化防止に効果があるという政府の主張は非常に近視眼的であり、偏った見方である。原発は環境保全上極めて問題が大きいというのが世界の常識となっており、欧米をはじめ経済先進国はいずれも脱原発に方針を変えている。我が国に隣接する台湾も、建設中の第4号原発は中止とすることを最近決めた。これが21世紀に向けての世界の流れである。主な理由は環境リスクが大きく、経済的にも不利だからだ。

 ところが、日本では行政の縄張りの関係から放射能汚染を環境汚染と考えていない。環境アセスメントでも我が国では放射能汚染を評価項目としないが、これは国際的には通用しない。放射能汚染が最も深刻な環境汚染なのは明らかだからである。原発により温室効果ガスを少々減らしたところで、原発のリスクを考えれば全くバランスが取れない。

 原発の問題が大きいことは、今更ここで詳しく論じるまでもないであろう。大きく三つの問題がある。放射能汚染の問題のほか、経済性が劣ることも世界の常識である。我が国では発電原価の根拠が公表されないためその非経済性が多くの国民には認識されていない。そして、核廃棄物処理の問題が解決されていない。だから、エネルギー政策として、これ以上の原発推進は誤った道であり、省エネの推進と自然エネルギーへの転換を組み合わせた政策が必要である。

 このことは、今では次第に国民も気がついてきた。例えば、この夏、原子力政策の長期計画に関して国民意見が求められ、原子力長期計画策定会議に2千通近くもの国民意見が寄せられた。この意見を踏まえて審議が進められるものと国民は期待したが、11月8日に開かれた策定会議はそのようには進まなかった。方針の見直しがなされないまま長期計画が策定されようとしている。これでは、国民意見の収集は単なるアリバイ作りになってしまう。

 しかし、これだけの意見が出されたということは、原子力発電のこれ以上の推進には多くの国民が異を唱えていると言う証拠である。少なくとも、原子力推進法案の第1条にある「原子力による発電が我が国の電気の安定供給に欠くことのできないものであることにかんがみ」という部分は、国民の大多数の認識に基づくものとは言えない。この条文の中身は十分な国民的議論が必要である。21世紀に向かい、世界が脱原発に向かっている今日、原子力のこれ以上の推進は極めてリスクの大きな選択である。

 ところがこの法案では、原子力を不可欠だと断定し、その上で原発の立地促進でという名目で、新たな公共事業のバラマキをしようとしている。野党だけでなく、自民党を初め与党も公共事業の見直しを主張しているが、このような公共事業バラマキを促進する法案を提案するとはどういうことか。与党の公共事業の見直しとは単なるポーズなのだろうか。財政改革が焦眉の急となっている今日、無駄な公共事業を減らすことは国民的課題である。

 周知のごとく。発電所の立地に関しては既に電源三法により手厚く地域振興の対策が取られているが、地域の活性化にはつながっていない。それどころか、先日発覚した新潟県刈羽村の生涯学習センター「ラピカ」のような原発交付金の杜撰な使用という問題も生じている。

 一部の閣僚だけで事業の判断をするという仕組みからして、無駄な公共事業のバラマキとなる可能性は極めて大きい。このような公共事業のバラマキを生む、時代に逆行する法律が作られようとしている。政権党にとっては新たな利権を生むことになる。

 現在、国民のほとんどは、この法案がいかにひどいものかを知らない。しかし、一旦成立して法の運用が始まれば、国民にもその中身が分かってくる。だが、その時では遅い。この法案の成立を阻止しなければ、将来世代に大きな禍根と負担を残すことになる。


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