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21世紀の行政と国民の新たな関係をめざして
〜利用者の観点からの実効性のある行政訴訟制度の構築〜
要旨概要


国民と行政の関係を考える若手の会


2003年3月26日


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1.国民と行政のパートナーシップへ

・行政と国民の関係は従来の上下関係から対等のパートナーシップへ。21世紀の日本の社会は自由と自己責任を基調とし、国民一人一人が伸び伸びと活動できる場へ転換。一方で市場を補う行政が提供するサービスの重要性も増大。

・なぜ行政訴訟制度改革か

(1) 行政スタイルは事前規制から事後審査へ転換。事後審査を支える根幹が行政訴訟制度。

(2) 行政・規制そして司法改革の一連の流れのなかで、行政訴訟制度はこれらを完結させる
重要な役割を持つ。

(3) 適切な行政運営は社会の安定化装置として機能。

・日本の行政訴訟は年間約1800件、フランス約11万件、ドイツ約20万件と比べて絶対的に少ない。人口比ではドイツの約250分の1。日本では却下比率が約20%、一部勝訴も10%強。行政の適法性を支える最終手段である行政訴訟制度は、健全な経済発展と国家社会そのものの基盤とする必要性。

2.硬直的な現在の制度

(1)「税金は取られてから争え」(?)

 東京都による銀行への外形標準課税は条例が制定され、課税時期も明確であったにも拘らず、現実に課税処分がなされる段階まではその適法性を争う手段が一切存在しなかった。司法審査の時期が遅きに失したために、東京都敗訴により都民は課税額相当分に対する高率の利子を銀行に返還する事態に。

(2)「クレジットカードは信書」(?)

 かつてヤマト運輸によるクレジットカード・ダイレクトメールの配送が郵便法で禁止する「信書」該当するか否かで郵政省との間で解釈の相違があったが、事前に裁判所の判断を求めることはできなかった。処罰覚悟でクレジットカードを配送し、起訴されて後、刑事裁判の中で解釈を争うしかない。

(3)「寺院はカルト教団の埋葬要請を断れない」(?)

 いわゆる墓地埋葬法では、正当な理由がない場合には埋葬を拒んではならない旨規定するが、通達では異教徒の埋葬を拒むことは正当な理由にならないと規定。現在は通達そのものを争えないため、例えば、仏教寺院がカルト教団信者の埋葬を拒むことは正当な理由に当たると考えても、司法判断を求めるためには、拒んだうえで刑事被告人となり、有罪・無罪を争う過程でしか通達の違法を争えない。

(4)「行政訴訟のやり方は教えないが、飛行機騒音は民事訴訟では争うな」(?)

 大阪空港夜間飛行差し止め訴訟最高裁判決では、民事訴訟による差し止めは「航空行政権」侵害に当たるため不適法・却下とする一方、「航空行政権」を争う行政訴訟が、何を対象にどのような形式たるべきかについては判断なし。専門家にも不明であったため、権利が侵害されても「民事」と「行政」とのキャッチ・ボールで裁判を受ける権利を奪われかねない状況。

3.制度の目的を徹底

・行政は時間・人的資源・予算・情報の点で、原告よりも圧倒的優位。・裁判での対等性を確保し、専門的な難解用語や技法を振りかざさない、利用者の利便を確保する制度へ。・「権利の救済」と「行政活動の適法性確保」とは、それぞれ独立の領域で目的を徹底すべき。

4.改革のポイント

(1)取消訴訟中心主義の見直し
取消訴訟ができても他の訴訟を許す制度へ


・現在の制度は、行政活動を争う場合には取消訴訟を原則とし、その他は例外扱い。「取消し」以外にも「確認」・「処分発動」・「処分差し止め」など、救済方法は形式にとらわれず、実質に即して多様化すべき。

・「取消訴訟ができる領域では他の手段で行政処分を争うことができない」という、取消訴訟が他の訴訟類型を排除する効力は大幅に縮小すべき。

・特に「航空行政権」による民事訴訟の排除のような、曖昧であるにも拘らず、救済の極端な排除をもたらすような効力は廃止。

(2)出訴期間は原則廃止

・現在は「処分を知ってから」3ヶ月以内の提訴が原則。以後は違法であっても救済不可。

・「法的安定性」の確保と言われるが、安定を図らなければならないのは、租税の滞納処分で土地・家屋が第三者の手に渡っていたり、都市計画事業認可により多数の人々の権利関係が形成されたりする「第三者への影響」がある場合に限るべき。

・一方、第三者に関わらない課税処分、営業許可の拒否などでは、処分をした行政と、処分を受けた国民との間だけでいかなる後始末をするべきか、という問題にすぎない。

・そこで、第三者に関わらない当事者と行政だけとの間の処分については、すべて時効制度に委ねるべき。第三者に関わる処分については出訴期間を設けるが、その期間は最低6ヶ月程度とすべき。

(3)行政裁量の統制を強化

・個別の法政法規の裁量を極小化。
・行政訴訟法の中にも、裁量の統制手法として、行政の適切な説明責任を果たしているか否かの審査、代替案・費用便益分析手法などの検証可能な手法の活用を明記。
・取り消しうるのは裁量濫用の場合に限るとする行政訴訟法30条は廃止。

(4)国民訴訟−国レベルの財政上の違法是正訴訟を導入

・会計検査院で国の財政上の違法・是正策の審査を先行。
・会計検査院の判断の後、国民が財政上の違法を是正するための訴訟を提起できる国民訴訟を可能に。

5.改革の展望

(1)濫訴は抑制

 本来の救済は拡充−改革が実現すれば、問題例で掲げたような案件は適切に処理できるようになる→企業活動、国民活動はより自由で秩序あるものに。

(2)行政の自律的機能が飛躍的に向上

 事後審査の充実は行政が自律的に適切な活動を営むことを促進。

(3)行政改革・規制改革の総仕上げへの一里塚

 行政改革等の流れは事後審査措置の代表である行政訴訟制度の改善で集大成。